職業病リスクの内在による企業価値の低下について
こんにちは、社会保険労務士の吉田明文です。
先日、治療と仕事の両立支援に伺った事業所のご担当が、以前勤務されたお会社における経験談お話しされました。 その会社は建設業で、ある下請け会社が経営に行き詰まり、そこの社員50代1名(溶接工)を雇われましたが、その方が入社後に健康診断を受けられたところ肺がんが発見されました。かなり進行しており入院して手術を受けた後、職場復帰をされましたが1年後に再発しその後、残念ながらお亡くなりになったそうです。
職業病とは
特定の職業に従事することによってかかったり、かかる確率が高くなったりする病気をいいます。労働基準法では職業病のことを「業務上疾病」、医学用語では「職業性疾病」と呼んでいます。
職業病が疑われます
アーク溶接作業者は危険を伴うため、安全性の観点から労働安全衛生法により特別教育の修了者でないと行うことができません。またアーク溶接の作業中には溶けた金属の蒸気が空気中で冷却され「ヒューム(粉じん)」が発生するので呼吸用保護具(防じんマスク)の着用を義務づけ吸入による体内ばく露でじん肺となる危険を防止しています。
また、国は平成24年4月1日より、粉じん障害防止規則およびじん肺法施行規則を改正し、屋外でアーク溶接作業を行う際ですら呼吸用保護具の着用を義務づけました。
この方は、粉じん作業に常時従事する者であり会社には、一般定期健康診断の実施は当然の事ながら、それとは別にじん肺の定期健康診断についても実施の義務があります。
職業病だとどうなる
仮にこの方が、じん肺を起因とする肺がんだった場合、業務遂行性と業務起因性の判断がなされ、労働災害の可能性が出てきます。そうなると、会社にはアーク溶接によってじん肺が予見されるにもかかわらず、健康診断の措置すら取らず、じん肺回避の努力も行わなかった結果について、企業の健康配慮義務違反として訴訟のリスクを抱えることとなります。
たかが健康診断と思われるかも知れませんが、労働基準法や労働安全衛生法は最低基準であることをご理解いただき、特別教育の未修了者を作業につかせたり、健康診断の実施義務を怠ることは、企業価値低下の原因となりますのでご注意ください。